この記事の最終更新日: 2026年6月26日

ブラウザで音声通話やビデオ通話を作ろうとすると、よく出てくる技術が WebRTC です。
さらに、IP電話やSIPサーバーと連携する実装を調べると、SIP.js というJavaScriptライブラリも出てきます。
ここで初心者が混乱しやすいのが、次のような疑問です。
「SIP.jsとWebRTCは何が違うの?」
「SIP.jsだけで通話できるの?」
「WebRTCだけではダメなの?」
「SIPサーバーやPBXとはどう関係するの?」
結論から言うと、WebRTCはブラウザで音声・映像・データ通信を行うための技術で、SIP.jsはSIPという通話制御の仕組みをJavaScriptから扱うためのライブラリです。
もっと簡単に言うと、次のように分けて考えるとわかりやすいです。
WebRTC = 音声や映像を実際にやり取りするための技術
SIP.js = 誰に電話するか、着信するか、切断するかを制御するためのライブラリ
SIP.jsの公式サイトでも、SIP.jsはWebRTCのAPIを利用してSIP通信セッションをセットアップしやすくするJavaScriptライブラリとして説明されています。(sipjs.com)
この記事では、SIP.jsとWebRTCの関係を初心者向けにわかりやすく解説します。
まずWebRTCとは?
WebRTC は、ブラウザ上でリアルタイム通信を実現するための技術です。
MDNでは、WebRTCはWebアプリケーションやWebサイトで音声・映像メディアをキャプチャして配信したり、ブラウザ間でデータを交換したりできる技術として説明されています。プラグインや追加ソフトなしで、ブラウザ上の音声通話・ビデオ通話・データ通信を実現できるのが大きな特徴です。(MDNウェブドキュメント)
たとえば、WebRTCを使うと次のようなことができます。
- ブラウザでマイクの音声を取得する
- ブラウザでカメラ映像を取得する
- 相手と音声通話する
- 相手とビデオ通話する
- ブラウザ間でデータを送受信する
- プラグインなしでリアルタイム通信を実装する
WebRTCは、ブラウザ通話の「音声や映像を流す部分」を担当する技術だと考えるとわかりやすいです。
SIPとは?
次に、SIPについて理解しておきましょう。
SIP は Session Initiation Protocol の略です。
RFC 3261では、SIPは1人以上の参加者とのセッションを作成・変更・終了するためのアプリケーション層の制御、つまりシグナリングプロトコルとして定義されています。対象となるセッションには、インターネット電話、マルチメディア配信、マルチメディア会議などが含まれます。(IETF Datatracker)
少し難しく聞こえますが、初心者向けに言うと、SIPは 通話を始める・呼び出す・応答する・切るためのルール です。
たとえば、電話では次のような流れがあります。
相手に電話をかける
↓
相手の端末が鳴る
↓
相手が応答する
↓
通話が始まる
↓
どちらかが切る
このような「通話の開始・応答・終了」を制御するのがSIPの役割です。
代表的なSIPメッセージには、次のようなものがあります。
| SIPメッセージ | 役割 |
|---|---|
| REGISTER | 自分の居場所をSIPサーバーに登録する |
| INVITE | 相手に通話を開始する |
| 180 Ringing | 呼び出し中を表す |
| 200 OK | 応答・成功を表す |
| ACK | 応答を確認する |
| BYE | 通話を終了する |
つまり、SIPは音声そのものを運ぶというより、通話を成立させるための合図をやり取りする仕組みです。
SIP.jsとは?
SIP.js は、JavaScriptでSIPを扱うためのライブラリです。
SIP.jsのGitHubでは、WebRTCによるリアルタイムな音声・映像セッションの作成、WebSocket上でのSIP利用、インスタントメッセージ、プレゼンス、保留、転送、DTMF、画面共有などに対応するJavaScript向けSIPライブラリとして説明されています。(GitHub)
簡単に言うと、SIP.jsを使うと、ブラウザ上で次のような機能を実装しやすくなります。
- SIPサーバーに登録する
- 相手に発信する
- 着信を受ける
- 通話を開始する
- 通話を切断する
- 保留する
- 転送する
- DTMFを送る
- WebRTCと連携して音声・映像通話を行う
SIP.jsは、ブラウザでIP電話のような機能を作るときによく使われるライブラリです。
SIP.jsとWebRTCの関係
SIP.jsとWebRTCの関係は、通話制御とメディア通信の関係です。
かなり単純化すると、次のようになります。
SIP.js = 通話の制御を担当する
WebRTC = 音声・映像の通信を担当する
たとえば、ブラウザから相手に電話をかける場合、SIP.jsはSIPの INVITE を送って「通話を始めたい」と伝えます。
その後、実際にマイク音声やカメラ映像を相手とやり取りする部分ではWebRTCが使われます。
イメージとしては次のような役割分担です。
ユーザー操作
↓
SIP.js
↓
SIPサーバーへ発信・着信・切断などの制御
↓
WebRTC
↓
音声・映像の送受信
つまり、SIP.jsはWebRTCの代わりではありません。
SIP.jsはWebRTCを使って、SIPベースの通話アプリを作りやすくするためのライブラリです。
「SIP.jsだけ」で通話できるのか?
厳密に言うと、SIP.jsだけでは通話システム全体は完成しません。
SIP.jsはブラウザ側でSIPを扱うためのライブラリですが、実際の通話システムには多くの場合、次のような要素が必要になります。
- ブラウザアプリ
- SIP.js
- WebRTC
- SIPサーバー
- WebSocket接続
- STUN/TURNサーバー
- マイク・スピーカーの権限
- 必要に応じてPBXや電話網との接続
特に、ブラウザからSIPを使う場合は、SIP over WebSocketが重要になります。SIP.jsのGitHubでも、WebアプリケーションでSIPを利用するためにSIP over WebSocketを使うことが説明されています。(GitHub)
そのため、SIP.jsは「通話アプリの一部」であり、単体で電話サービス全体を提供するものではありません。
WebRTCだけではダメなのか?
WebRTCだけでも、ブラウザ同士で音声通話やビデオ通話を実装することはできます。
ただし、WebRTCには「相手をどう見つけるか」「どう呼び出すか」「着信をどう扱うか」といった通話制御の仕組みを、アプリ側で別途用意する必要があります。
WebRTCでは、音声・映像をやり取りするために接続情報を交換します。この接続情報の交換、つまりシグナリングはWebRTCそのものの外側で設計する必要があります。
そこで、IP電話や既存のSIPサーバーと連携したい場合に、SIP.jsが役に立ちます。
WebRTCだけの場合
→ シグナリングの仕組みを自分で設計する必要がある
SIP.jsを使う場合
→ SIPという既存の通話制御プロトコルを利用できる
特に、Asterisk、FreeSWITCH、KamailioなどのSIP系システムとブラウザをつなげたい場合は、SIP.jsのようなSIPライブラリが選択肢になります。
通話開始の流れをざっくり理解する
SIP.jsとWebRTCを使った通話開始の流れを、かなり単純化すると次のようになります。
1. ブラウザアプリを開く
2. SIP.jsがSIPサーバーへ接続する
3. SIP.jsがユーザーをREGISTERする
4. ユーザーが発信ボタンを押す
5. SIP.jsがINVITEを送る
6. 相手が応答する
7. SDP情報を交換する
8. WebRTCの接続を確立する
9. 音声・映像の通信が始まる
10. 通話終了時にBYEを送る
SIP.jsの古いAPIドキュメントでは、User Agent、つまりUAはSIPリクエストを送受信し、SIPユーザーアドレスに紐づき、登録やWebSocket上のシグナリング維持を行うものとして説明されています。バージョンによってAPIは変わりますが、SIP.jsがSIPユーザーエージェントとして振る舞うという考え方は理解の軸になります。(sipjs.com)
この流れで重要なのは、SIP.jsとWebRTCが同じことをしているわけではないという点です。
| 処理 | 主な担当 |
|---|---|
| SIPサーバーへの登録 | SIP.js |
| 発信・着信 | SIP.js |
| 通話の応答・拒否 | SIP.js |
| 通話終了 | SIP.js |
| マイク・カメラの取得 | WebRTC |
| 音声・映像の送受信 | WebRTC |
| 通信経路の確立 | WebRTC |
| NAT越え | WebRTC関連のICE/STUN/TURN |
このように分けて考えると、SIP.jsとWebRTCの関係が理解しやすくなります。
たとえで理解するSIP.jsとWebRTC
SIP.jsとWebRTCの関係は、電話でたとえるとわかりやすいです。
SIP.js = 電話をかける・呼び出す・切るための操作盤
WebRTC = 実際に声を届ける通話路
別の言い方をすると、SIP.jsは「通話の段取り」を担当し、WebRTCは「通話の中身」を担当します。
たとえば、飲食店の予約でたとえるなら、
SIP.js = 予約の受付・確認・キャンセル
WebRTC = 実際に食事をする場所
予約が成立しても、食事をする場所がなければ目的は達成できません。逆に、場所だけあっても、予約や案内の仕組みがなければスムーズに使えません。
SIP.jsとWebRTCも同じで、両方が組み合わさることでブラウザ通話が成立します。
SIP.jsを使う構成例
SIP.jsを使ったブラウザ通話の構成は、たとえば次のようになります。
ブラウザ
├─ JavaScriptアプリ
├─ SIP.js
└─ WebRTC API
↓
SIP over WebSocket
↓
SIPサーバー / PBX
↓
相手ユーザー・電話網など
ブラウザは通常のSIP UDP/TCPではなく、WebSocket経由でSIPサーバーとやり取りします。
そして、音声や映像のやり取りにはWebRTCが使われます。
SIPシグナリング
ブラウザ ←→ SIPサーバー
音声・映像メディア
ブラウザ ←→ 相手、またはメディアサーバー経由
ここで注意したいのは、SIPの通信経路と音声・映像の通信経路は必ずしも同じではないという点です。
SIPは「通話を制御する信号」であり、WebRTCは「音声・映像の実通信」です。
SIP.jsでよく出てくる用語
SIP.jsを学ぶと、次のような用語が出てきます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| UserAgent | SIPユーザーとして動作する中心的なオブジェクト |
| REGISTER | SIPサーバーに自分の所在を登録する処理 |
| INVITE | 通話開始のリクエスト |
| BYE | 通話終了のリクエスト |
| Session | 通話や通信セッション |
| Transport | SIPメッセージを運ぶ通信経路 |
| WebSocket | ブラウザとSIPサーバー間のシグナリング経路 |
| SDP | 音声・映像の条件を交換するための情報 |
| ICE | 通信経路を見つけるための仕組み |
| STUN | 自分の外部アドレスを知るために使われる仕組み |
| TURN | 直接通信できない場合に中継する仕組み |
初心者は、最初からすべてを完璧に覚える必要はありません。
まずは、SIP.jsはSIPの操作、WebRTCは音声・映像の通信という大枠を押さえることが大切です。
SIP.jsとWebRTCでできること
SIP.jsとWebRTCを組み合わせると、ブラウザ上で次のような機能を実装できます。
- ブラウザからの音声発信
- ブラウザでの着信
- ブラウザ同士の音声通話
- ビデオ通話
- SIPサーバーとの連携
- 社内電話システムとの連携
- コールセンター向けWebソフトフォン
- 管理画面上のクリック発信
- Webアプリ内の通話機能
- 通話の保留や転送
- DTMF送信
SIP.jsのGitHubでも、WebRTCによるリアルタイム音声・映像セッション、SIP over WebSocket、メッセージ、プレゼンス、保留、転送、DTMF、画面共有などが機能として挙げられています。(GitHub)
特に、ブラウザをソフトフォンのように使いたい場合に、SIP.jsは有力な選択肢になります。
SIP.jsを使うときに必要になりやすいもの
SIP.jsを使って通話機能を実装する場合、フロントエンドのJavaScriptだけでは完結しないことが多いです。
実際には、次のような要素が必要になります。
1. SIPサーバー
SIP.jsは、基本的にSIPサーバーと通信します。
SIPサーバーは、ユーザー登録、発信、着信、ルーティングなどを担当します。
ブラウザ
↓
SIP.js
↓
SIPサーバー
2. WebSocket対応
ブラウザからSIPを扱う場合、SIP over WebSocketに対応したサーバー構成が必要になります。
通常のSIPクライアントと違い、ブラウザではWebSocket経由でSIPシグナリングを行うのが一般的です。
3. HTTPS環境
ブラウザでマイクやカメラを扱う場合、HTTPS環境が前提になることが多いです。
ローカル開発では localhost で動かせる場合もありますが、本番運用ではHTTPSを前提に設計する必要があります。
4. STUN/TURNサーバー
WebRTCでは、NATやファイアウォールを越えて通信するためにICE、STUN、TURNが関係します。
特に社内ネットワーク、モバイル回線、厳しいファイアウォール環境では、TURNサーバーが必要になることがあります。
5. 音声デバイスの権限
ブラウザ通話では、マイクやスピーカーの権限管理も重要です。
ユーザーがマイク権限を拒否すると、通話機能は正常に動きません。
初心者が混乱しやすいポイント
SIP.jsは通話音声そのものを送っているわけではない
SIP.jsは、主にSIPシグナリングを扱うライブラリです。
実際の音声・映像の送受信はWebRTCが担当します。
SIP.js = 発信・着信・切断などの制御
WebRTC = 音声・映像の送受信
WebRTCだけでは電話番号への発信はできない
WebRTCはブラウザのリアルタイム通信技術です。
そのため、WebRTCだけで一般的な電話番号に発信できるわけではありません。
電話網やSIPサーバー、PBX、ゲートウェイなどと接続する設計が必要になります。
SIPサーバーがWebSocketに対応している必要がある
SIP.jsをブラウザで使う場合、SIPサーバー側がSIP over WebSocketに対応している必要があります。
通常のSIP設定だけでは、ブラウザからそのまま接続できないことがあります。
ブラウザ通話ではNAT越えが重要
開発環境では動いても、本番環境や社内ネットワークでは音が出ない、片方向だけ音が聞こえる、といった問題が起きることがあります。
この場合、WebRTCのICE、STUN、TURN、ファイアウォール設定、SIPサーバー側のSDP処理などを確認する必要があります。
SIP.jsとWebRTCの違いまとめ
SIP.jsとWebRTCの違いをまとめると、次のようになります。
| 比較項目 | SIP.js | WebRTC |
|---|---|---|
| 種類 | JavaScriptライブラリ | ブラウザのリアルタイム通信技術 |
| 主な役割 | SIPシグナリングを扱う | 音声・映像・データ通信を扱う |
| 担当する処理 | 発信、着信、登録、切断など | マイク・カメラ、通信経路、メディア送受信 |
| 関係する技術 | SIP, WebSocket, SDP | RTCPeerConnection, ICE, STUN, TURN, RTP/SRTP |
| 単体での役割 | 通話制御を実装しやすくする | ブラウザでリアルタイム通信を可能にする |
| よく使う場面 | SIPサーバー連携、Webソフトフォン | ブラウザ通話、ビデオ会議、P2P通信 |
一言で言えば、SIP.jsは通話の段取り、WebRTCは通話の中身です。
どんな人がSIP.jsを学ぶべきか?
SIP.jsは、次のような人に向いています。
- ブラウザで音声通話機能を作りたい人
- Webソフトフォンを開発したい人
- SIPサーバーとWebアプリを連携したい人
- AsteriskやFreeSWITCHなどとブラウザをつなぎたい人
- コールセンター向けのWeb通話画面を作りたい人
- WebRTCだけでなく、既存の電話システムとも連携したい人
逆に、単純なブラウザ同士のビデオチャットだけを作る場合は、SIP.jsを使わず、WebRTCと独自のシグナリングサーバーで構成する方法もあります。
重要なのは、SIPの世界とつなぎたいかどうかです。
SIPサーバーや既存の電話基盤とつなぐならSIP.jsが候補になります。
独自のWeb会議アプリを作るなら、SIP.jsなしでWebRTCを直接扱う構成も考えられます。
まとめ
SIP.jsとWebRTCは、どちらもブラウザ通話に関係する技術ですが、役割は違います。
この記事のポイントをまとめます。
- WebRTCは、ブラウザで音声・映像・データ通信を行うための技術
- SIPは、通話の開始・変更・終了を制御するためのプロトコル
- SIP.jsは、JavaScriptでSIPを扱うためのライブラリ
- SIP.jsはWebRTCを利用してブラウザ通話を実装しやすくする
- SIP.jsは主に発信・着信・登録・切断などの通話制御を担当する
- WebRTCはマイク・カメラ・音声・映像の送受信を担当する
- SIP.jsを使うには、SIPサーバーやSIP over WebSocket対応が必要になることが多い
- WebRTCだけでも通話は作れるが、SIPサーバー連携にはSIP.jsが役立つ
初心者は、まず次の一文で覚えるとわかりやすいです。
SIP.jsは通話を制御するためのライブラリ、WebRTCは音声や映像を実際に通信するための技術
つまり、SIP.jsとWebRTCは競合するものではありません。
SIP.jsがWebRTCを利用し、SIPの仕組みでブラウザ通話を実現するという関係です。

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