この記事の最終更新日: 2026年5月24日

インターネットやネットワークを勉強していると、NATという言葉がよく出てきます。
たとえば、次のような場面です。
- 自宅のWi-Fiにつないだパソコンやスマホがインターネットに接続できる
- 複数の端末が1つの回線で同時に通信できる
- オンラインゲームやビデオ通話で「NATタイプ」が表示される
- サーバー公開やポート開放の設定でNATが関係する
NATは、ネットワークの中でも非常に重要な仕組みです。
この記事では、初心者向けにNATとは何か、なぜ必要なのか、どのように通信しているのかをわかりやすく解説します。
NATとは?
NATとは、Network Address Translationの略です。
日本語では、ネットワークアドレス変換と呼ばれます。
簡単に言うと、NATは
IPアドレスを別のIPアドレスに変換する仕組み
です。
特に多いのは、家庭や会社のネットワーク内で使われるプライベートIPアドレスを、インターネット上で使えるグローバルIPアドレスに変換するケースです。
NATを理解するために必要な2種類のIPアドレス
NATを理解するには、まず次の2つのIPアドレスを知っておく必要があります。
| 種類 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| プライベートIPアドレス | 家庭内や社内ネットワークで使うIPアドレス | 192.168.1.10 |
| グローバルIPアドレス | インターネット上で使うIPアドレス | 203.0.113.10 |
自宅のWi-Fiに接続しているスマホやパソコンには、多くの場合、次のようなIPアドレスが割り当てられています。
192.168.1.5
192.168.1.8
192.168.1.12
これらはプライベートIPアドレスです。
プライベートIPアドレスは、自宅や会社の中では使えますが、そのままインターネット上では使えません。
そこで登場するのがNATです。
NATの役割
NATの主な役割は、次のとおりです。
家庭内・社内の端末がインターネットへ出るときに、プライベートIPアドレスをグローバルIPアドレスに変換すること
たとえば、自宅のパソコンからWebサイトにアクセスするとします。
パソコン
192.168.1.10
↓
ルーター
↓
インターネット
このとき、パソコンのIPアドレスである 192.168.1.10 はインターネット上では使えません。
そのため、ルーターがNATを使って、次のようにIPアドレスを変換します。
変換前:192.168.1.10
変換後:203.0.113.10
つまり、外部のWebサイトから見ると、通信元はパソコンではなく、ルーターのグローバルIPアドレスに見えます。
身近な例で考えるNAT
NATは、会社の代表電話に例えるとわかりやすいです。
会社にはたくさんの社員がいます。
しかし、外部の人から見ると、会社の電話番号は1つだけです。
外部から見える番号:会社の代表電話番号
社内の人:社員A、社員B、社員C
社員Aが外部に電話しても、相手には会社の代表番号が表示されるようなイメージです。
NATも同じです。
外部から見えるIP:ルーターのグローバルIPアドレス
内部の端末:スマホ、PC、タブレット
インターネット側から見ると、家庭内の複数端末は、まとめて1つのグローバルIPアドレスから通信しているように見えます。
NATの通信の流れ
もう少し具体的に、NATの通信の流れを見てみましょう。
たとえば、自宅のパソコンがWebサイトにアクセスする場合です。
パソコン:192.168.1.10
ルーター:203.0.113.10
アクセス先Webサーバー:198.51.100.20
通信の流れは次のようになります。
1. パソコンがWebサイトにアクセスする
パソコンは、Webサーバーに向けて通信を送ります。
送信元:192.168.1.10
宛先:198.51.100.20
2. ルーターが送信元IPを変換する
ルーターはNATによって、送信元IPアドレスを変換します。
送信元:203.0.113.10
宛先:198.51.100.20
3. Webサーバーが返信する
Webサーバーは、ルーターのグローバルIPアドレスに返信します。
送信元:198.51.100.20
宛先:203.0.113.10
4. ルーターが元の端末に戻す
ルーターは、受け取った返信を見て、
この通信は、もともと
192.168.1.10のパソコンが始めたものだ
と判断します。
そして、宛先を元のパソコンに戻します。
送信元:198.51.100.20
宛先:192.168.1.10
このようにして、自宅のパソコンはインターネットと通信できます。
NATテーブルとは?
NATでは、ルーターが通信の対応関係を覚えておく必要があります。
そのために使われるのが、NATテーブルです。
NATテーブルには、次のような情報が記録されます。
内部端末:192.168.1.10
変換後のIP:203.0.113.10
通信先:198.51.100.20
使用ポート:50001
ルーターはこの記録を見て、外部から返ってきた通信をどの端末に戻すべきか判断します。
つまり、NATは単純にIPアドレスを置き換えているだけではなく、
どの内部端末の通信だったかを管理している
という点が重要です。
実際によく使われているのはNAPT
厳密に言うと、家庭用ルーターでよく使われているのは、単純なNATというよりNAPTです。
NAPTは、Network Address Port Translationの略です。
日本語では、IPマスカレードと呼ばれることもあります。
NATが主にIPアドレスを変換する仕組みだとすると、NAPTは
IPアドレスに加えて、ポート番号も変換する仕組み
です。
これにより、1つのグローバルIPアドレスを、複数の端末で共有できます。
なぜポート番号も変換する必要があるのか?
家庭内には複数の端末があります。
スマホ:192.168.1.2
PC:192.168.1.3
タブレット:192.168.1.4
これらが同時にインターネットへアクセスした場合、外部から見るとすべて同じグローバルIPアドレスに見えます。
203.0.113.10
これだけでは、ルーターは返信をどの端末に戻せばよいかわかりません。
そこで、ポート番号を使って区別します。
192.168.1.2:50001 → 203.0.113.10:60001
192.168.1.3:50002 → 203.0.113.10:60002
192.168.1.4:50003 → 203.0.113.10:60003
このように、ポート番号まで含めて管理することで、複数端末が同時にインターネットを利用できます。
NATが必要になった理由
NATが広く使われるようになった大きな理由は、IPv4アドレスの不足です。
IPv4では、理論上約43億個のIPアドレスしかありません。
一見多そうに見えますが、世界中のスマホ、PC、サーバー、IoT機器などに割り当てるには足りません。
そこで、家庭や会社の中ではプライベートIPアドレスを使い、インターネットに出るときだけグローバルIPアドレスに変換する方法が広まりました。
これにより、1つのグローバルIPアドレスを複数端末で共有できるようになりました。
NATのメリット
NATには、主に次のようなメリットがあります。
1. グローバルIPアドレスを節約できる
NATを使うと、家庭や会社内の複数端末が、1つのグローバルIPアドレスを共有できます。
たとえば、自宅に次の端末があったとします。
スマホ
PC
タブレット
ゲーム機
スマートテレビ
これらすべてに個別のグローバルIPアドレスを割り当てる必要はありません。
ルーターがNATを行うことで、1つのグローバルIPアドレスでインターネットに接続できます。
2. 内部ネットワークの構成を隠せる
NATを使うと、外部からは内部のプライベートIPアドレスが見えません。
外部のWebサイトから見えるのは、基本的にルーターのグローバルIPアドレスです。
そのため、家庭内や社内にどのような端末があるのか、外部からは直接わかりにくくなります。
ただし、これはあくまで副次的な効果です。
NATはセキュリティ機能そのものではありません。
セキュリティを考える場合は、ファイアウォールや適切なアクセス制御も必要です。
3. 家庭や会社のネットワークを作りやすい
NATを使うことで、家庭内や社内では自由にプライベートIPアドレスを使えます。
たとえば、次のようなネットワークを作れます。
192.168.1.0/24
10.0.0.0/24
172.16.0.0/24
これにより、内部ネットワークの設計がしやすくなります。
NATのデメリット
NATは便利ですが、万能ではありません。
いくつかのデメリットもあります。
1. 外部から内部端末へ直接アクセスしにくい
NATを使っている場合、インターネット側から家庭内のPCやサーバーに直接アクセスすることは基本的にできません。
なぜなら、外部から見えているのはルーターのグローバルIPアドレスだけだからです。
たとえば、自宅PCでWebサーバーを立てて外部公開したい場合、そのままではアクセスできないことがあります。
この場合は、ポート開放やポートフォワーディングの設定が必要になります。
2. オンラインゲームや通話アプリで問題になることがある
オンラインゲームや音声通話、ビデオ通話では、NATが原因で接続しづらくなることがあります。
たとえば、ゲーム機で次のような表示を見ることがあります。
NATタイプ:オープン
NATタイプ:モデレート
NATタイプ:ストリクト
NATの種類やルーターの設定によっては、他のプレイヤーと接続しにくくなる場合があります。
3. 通信の仕組みが複雑になる
NATはIPアドレスやポート番号を書き換えるため、通信経路の理解が少し難しくなります。
特に、次のような場面ではNATの理解が必要になります。
- サーバー公開
- VPN接続
- オンラインゲーム
- WebRTC
- Dockerや仮想環境のネットワーク設定
- クラウド環境のネットワーク設計
ネットワークトラブルの原因を調べるとき、NATが関係していることは珍しくありません。
ポート開放とNATの関係
NATを理解すると、ポート開放も理解しやすくなります。
ポート開放とは、簡単に言うと
外部から来た特定の通信を、内部の特定端末へ転送する設定
です。
たとえば、自宅のPCでWebサーバーを動かしているとします。
PC:192.168.1.10
Webサーバー:80番ポート
外部からルーターのグローバルIPアドレスにアクセスされたとき、ルーターが次のように転送します。
203.0.113.10:80
↓
192.168.1.10:80
この設定がポート開放です。
つまり、ポート開放はNATの仕組みを利用して、
外部から内部の特定端末へ通信を届ける設定
だと考えるとわかりやすいです。
NATとファイアウォールの違い
NATとファイアウォールは混同されやすいですが、役割が違います。
| 項目 | NAT | ファイアウォール |
|---|---|---|
| 主な役割 | IPアドレスやポートを変換する | 通信を許可・拒否する |
| 目的 | アドレス変換、IPアドレス節約 | セキュリティ制御 |
| 例 | 192.168.1.10 を 203.0.113.10 に変換 | 80番ポートは許可、22番ポートは拒否 |
NATを使っていると外部から直接アクセスされにくくなるため、セキュリティ機能のように見えることがあります。
しかし、NATの本来の目的はアドレス変換です。
セキュリティ対策としては、ファイアウォール設定も重要です。
NATとIPv6の関係
NATは、主にIPv4でよく使われている仕組みです。
一方で、IPv6では非常に多くのIPアドレスを使えるため、IPv4ほどNATに頼る必要はありません。
IPv6では、各端末にグローバルに到達可能なIPアドレスを割り当てる設計も可能です。
ただし、だからといって安全対策が不要になるわけではありません。
IPv6環境でも、外部からの不要な通信を防ぐために、ファイアウォールやルーターの設定は重要です。
NAT越えとは?
NATに関連して、NAT越えという言葉もよく出てきます。
NAT越えとは、簡単に言うと
NATの内側にある端末同士が、うまく直接通信できるようにする技術や工夫
です。
たとえば、次のようなサービスで関係します。
- オンラインゲーム
- ビデオ通話
- 音声通話
- P2P通信
- WebRTC
NATの内側にある端末は、外部から直接アクセスしにくいため、通信相手と接続するために工夫が必要になります。
そのために、STUN、TURN、ICEといった技術が使われることがあります。
初心者の段階では、まず
NATがあると、外部から内部端末へ直接つなぐのが難しくなる
と理解しておけば十分です。
NATを一言でまとめると
NATを一言でまとめると、次のようになります。
NATとは、家庭内や社内のプライベートIPアドレスを、インターネットで使えるグローバルIPアドレスに変換する仕組み
もう少し実務寄りに言うと、
複数の端末が1つのグローバルIPアドレスを共有してインターネットに接続するための仕組み
です。
初心者が押さえるべきポイント
最後に、NATについて初心者が押さえるべきポイントを整理します。
- NATは、IPアドレスを変換する仕組み
- 家庭用ルーターや社内ネットワークでよく使われる
- プライベートIPアドレスをグローバルIPアドレスに変換する
- 実際にはポート番号も変換するNAPTがよく使われる
- NATによって複数端末が1つのグローバルIPを共有できる
- 外部から内部端末へ直接アクセスするにはポート開放が必要になることがある
- NATはセキュリティ機能そのものではない
- オンラインゲームや通話アプリではNATが接続性に影響することがある
まとめ
NATは、普段インターネットを使っているだけでは意識しにくい仕組みです。
しかし、自宅のWi-Fi、会社のネットワーク、サーバー公開、オンラインゲーム、VPN、WebRTCなど、さまざまな場面で関係しています。
特に重要なのは、次の考え方です。
内部の端末はプライベートIPアドレスを使う
↓
ルーターがNATでグローバルIPアドレスに変換する
↓
インターネットと通信できる
NATを理解すると、ネットワークの仕組みがかなり見えやすくなります。
まずは、
NATは、内側のネットワークとインターネットの間でIPアドレスを変換する仕組み
と覚えておきましょう。

大阪のエンジニアが書いているブログ。



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